本当にそのKindle端末で良いんですか?
「Kindle OasisはKindle Paperwhiteを売るためのおとり商品である」
このように言われて、皆さん理解できるでしょうか?
この記事では、Kindle販売元のAmazonのマーケティング戦略を行動経済学の知見に基づいて分析していきたいと思います。
最後には今回のAmazonの事例から、我々消費者が日頃の買い物で気をつけるべきこと、また商品を販売する立場にある方が今後活かすべきことをお伝えします。
電子書籍で読書をしている、また興味があるという人も多いのではないでしょうか?
かくいう私も、つい先月にKindle Paperwhiteを購入し電子書籍デビュー致しました。
電子書籍を読む際に、KindleがおすすめというのはYouTubeやブログなどで目にしていましたが、いざ買おうとするとKindle本を読むための端末が複数存在することを知りました。
現在主に販売されている端末は次の3つです。
通常盤Kindle 8,980円
Kindle Paperwhite 13,980円
パッと見て感じた人も多いでしょうが、Oasisの価格が異常に高いと感じませんか?
私自身、Kindle端末の購入を検討していたときは、Oasis高すぎだろ!と思って、すぐに購入の選択肢から外してしまいました。
そして結局、通常盤Kindleの上位モデルで価格的にも妥当に感じたPaperwhiteを購入しました。
この時はマーケティング戦略など何も考えずに購入してしまいましたが、後々になって上手くAmazonに誘導されたな〜と感じ本日ブログを書いております!(Paperwhiteの購入には非常に満足しています笑)
さて話を戻したいと思います。
Kindle各端末の機能の差に関する詳細はAmazonのHPを参照して頂きたいのですが、Oasisは1段階性能の劣るPaperwhiteに比べて
画面サイズが大きい、細かな明るさ調整が可能、ページを進めるのが簡単といった機能が付いているようです。
これらの機能を付けるのにかかるコストの詳細は分かりませんが、それにしてもPaperwhiteとの価格差が大きい気がします。
(補足ですが、通常盤Kindle とPaperwhite間には、防水機能の有無、解像度、容量などの差があります。こういった割と大きな差があるにも関わらず、PaperwhiteとOasis間に比べると価格差は非常に小さいです。)
実は、ここにはKindle端末を販売するAmazonのマーケティング戦略が関連していると考えられます。
そしてその結論が、冒頭で述べた
「Kindle OasisはKindle Paperwhiteを売るためのおとり商品である」
ということになります。
行動経済学の観点から、このマーケティング手法を分析していきます。
今回のポイントは
「フレーミング効果」です。
「フレーミング効果」とは、
商品やサービス自体とは関係のない外部要因によって、商品・サービスへの評価が変わることを言います。
代表的なものでは、「松」「竹」「梅」といったランク付のある3種類のものがあると真ん中のもの(竹)を選びがちになるという「極端の回避化」と言われる現象があります。(この場合では、「松」「梅」の2つがあることによって、「竹」を消費者に一層魅力的に感じさせているのです)
フレーミング効果の影響の大きさについて、まだ実感が湧かない方も多いかと思います。
ここで行動経済学研究の第一人者であるアリエリーが行った、フレーミング効果に関する有名な研究をご紹介します。
― 研究概要 ―
『The Economist』というビジネス週刊誌の年間購読プランをマサチューセッツ工科大学スローン経営大学院の院生100人に選ばせた。
最初の実験では選択肢は3つあり、学生たちの選択結果は以下の様になった。
プラン |
形態 |
価格 |
選択人数 |
A |
ウェブ版のみ |
59ドル |
16人 |
B |
印刷版のみ |
125ドル |
0人 |
C |
ウェブ版と印刷版のセット |
125ドル |
84人 |
プランBはプランCと価格が変わらないのに関わらず印刷版のみのためプランBを選ぶ学生はいなかった。
面白いのは、次の実験結果である。次はプランBの選択肢を除外する以外の条件は同じにして、学生たちにプランを選ばせた。
結果は以下のようになった。
プラン |
形態 |
価格 |
選択人数 |
A |
ウェブ版のみ |
59ドル |
68人 |
C |
ウェブ版と印刷版のセット |
125ドル |
32人 |
誰も選ばなかったプランBを除いただけなのに、プランAを選ぶ学生が大幅に増え (16人→68人)、プランCを選ぶ学生は大幅に減少した(84人→32人)。
(人間が本当に合理的ならば、プランAとプランCを選ぶ人数は同じになるはずです)
この実験結果より、プランBという選択に無関係に思えた存在の有無がプランA、Cのどちらを選ぶかに影響を与えた事が分かります。
この様な結果となった理由としては、プランBとプランCを比較してプランCをお買い得に感じ、ついつい全体の中でもプランCをもっともお得な選択肢に感じてしまったという事が推測されます。
これはまさに「フレーミング効果」が存在すること、そしてその影響力が大きいことを示しています。
今回のKindle端末の例ではPaperwhiteとOasisという機能的には大差のない2つにおいて、Paperwhiteの方が大幅に安いためPaperwhiteをかなりお買い得だと感じます(上記の実験でいうとプランBがOasis、プランCがPaperwhiteに対応します)。そうすると、通常盤KindleとPaperwhiteを比較した際にもPaperwhiteに魅力を強く感じるのです。
では、最後に消費者側、販売者側それぞれが今回のことから学べることを整理しましょう。
・消費者
「相対的でなく絶対的なものさしで価値判断」
何かを購入する際、ついつい私たちは他のものと比較して一番良いと思うものを選んでしまいます。しかし、それは販売側の戦略に乗せられているだけかもしれません。自分が必要だと思う機能・品質、それを利用することに払うべき適切価格はいくらかという自分なりのものさし(考え)を持って、選択して行くべきです。そうすると無駄なものを買ったり、余分なお金を消費したりせずに済むでしょう。
・販売者
「ものを売る際には3つの選択肢」
「松」「竹」「梅」の説明でも述べましたが、人間は中央の選択肢を選びがちです。最も売りたい商品が真ん中(竹)に来るような選択肢を消費者に提示しましょう。その際、一つだけ注意点があります。価格、品質の差はテキトーにつけてはいけません。「松」と「竹」の価格差はより大きく、「松」と「竹」の品質差は小さくするべきです。こうすることで、「竹」の魅力がより一層強まります。この差を適切につけないと、消費者は「竹」に対して魅力を強く感じません。「松」「竹」「梅」のどれを選んだら良いのか悩み、結局どれも買わないということまで起こりうるのでご注意ください。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
今後も日々の生活に役立つ行動経済学に関する記事を更新して行きます。
読者の皆さんの暮らしをより良くする助けとなるよう取り組んでいきますので、今後もよろしくお願いいたします。
実験の概要や用語に関しては
『東大教授が教えるヤバいマーケティング』(著者:阿部誠)(KADOKAWA)
『予想どおりに不合理 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』(著者:ダン・アリエリー、訳:熊谷淳子)(早川書房)
を参考にしています。